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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)12379号 判決 1980年2月18日

原告 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 北沢孜

同 町田正男

被告 東京都

右代表者知事 鈴木俊一

右訴訟代理人弁護士 吉原歓吉

右指定代理人東京都事務吏員 池野徹

<ほか三名>

主文

一  被告は、原告に対し、金一〇万円及びこれに対する昭和五二年一〇月二一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、被告の負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

五  被告が金一〇万円の担保を供するときは、前項の仮執行を免れることができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一二〇万円及びこれに対する昭和五二年一〇月二一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

3  仮執行免脱の宣言。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  警視庁機動隊員の加害行為

(一) 全日本学生自治会総連合及び全国反戦青年委員会は、共同で、昭和五二年一〇月二一日午後五時ころ、日比谷公園内日比谷野外音楽堂において、「ファントム墜落弾劾、基地撤去、安保粉砕、日韓疑獄弾劾、原子力開発阻止、水本君謀殺・遺体スリカエ弾劾一〇・二一労学大統一行動」国際反戦デー集会を開催し、更に同日午後八時ころから同九時ころまでの間、右集会参加者約六五〇名によるデモ行進を日比谷公園から常盤橋公園まで実施した。

(二) 原告は、○○弁護士会に所属する弁護士であるが、右集会に来賓として出席し、前記水本君謀殺・遺体スリカエ事件の裁判の進行状況等について報告を行い、更に主催者の要請により、右デモ行進に対する機動隊の不当弾圧を監視及び防止するため、デモ解散地である常盤橋公園までデモ行進に付添った。

(三) 前記デモ行進は、同日午後九時ころ、平穏のうちに終了し、参加者は、解散地である常盤橋公園において、ヘルメット・タオル等を脱ぎ、旗ざお等を運搬用の自動車に積み込み、それぞれ帰路についた。原告は、大多数の参加者と同じく、徒歩で最寄りの東京駅に向った。ところが、警視庁所属の機動隊員は、常盤橋公園角交差点付近(別紙図面(一)地点、以下「地点」という。)において、歩道上に立ちふさがり、原告らの進行を阻止した。原告らは、やむなく、新常盤橋方向へ向きを変えて進行し、新常盤橋交差点(別紙図面(一)、地点、以下「地点」という。)を左折し、鎌倉橋方向に進んだ。右機動隊員らは、再び、中央区日本橋本石町四丁目三番地日本交通株式会社日本橋営業所前付近(別紙図面(一)地点、以下「地点」という。)において、原告らの前方へ回り込み、歩道上に横隊を組んでその進行を阻止した。

(四) 原告は、進行を阻止した機動隊員らに対し、弁護士であることを告げたうえ、進行を阻止する理由を尋ねた。右機動隊員ら及び原告と対面した警視庁特科車両隊副隊長瓜生宏は、原告に対し、納得のいく説明をしなかった。そのため、原告と瓜生は、通行をめぐって問答を繰返したが、その時、瓜生の横にいた機動隊員が、いきなり手拳で原告の顔面を殴打した。

(五) 原告は、右暴行により全治一週間を要する顔面挫創、鼻孔内裂傷の傷害を負った。

2  被告の責任

公権力の行使に当る被告東京都の公務員である警視庁機動隊員の原告に対する前記加害行為は、その職務を行なうにつき故意になされた違法なものであるから、被告は、右違法行為によって原告が被った損害を賠償する責を負うものというべきである。

3  損害

(一) 精神的損害 金一〇〇万円

原告は、国民の生命と財産を守るべき立場にある機動隊員から暴行を加えられたのであり、これによって原告が被った肉体的、精神的苦痛は、はかり知れないものがある。この苦痛を慰藉すべき金額は、一〇〇万円を下らない。

(二) 弁護士費用 金二〇万円

原告は、弁護士である原告訴訟代理人両名に本件訴訟の提起進行を委任し、その報酬として一〇万円ずつ支払うことを約した。

4  よって、原告は被告に対し、前記3の損害金一二〇万円及びこれに対する本件不法行為の日である昭和五二年一〇月二一日から支払いずみまで法定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1(一)の事実は認める。同1(二)の事実のうち、原告が○○弁護士会所属の弁護士であること及び原告がデモ行進に同行して常盤橋公園まで行ったことは認め、その余の事実は知らない。同1(三)の事実のうち、原告らデモ参加者の常盤橋公園を出た後の進路が原告主張のとおりであること及び警視庁所属の機動隊員が及びの地点で、原告らデモ参加者に対し、通行の規制を行ったことは認め、その余の事実は知らない。同1(四)の事実のうち、地点で原告と瓜生が通行をめぐって問答したことは認め、機動隊員が原告を殴打したことは否認する。同1(五)の事実は知らない。同2の主張は争う。同3の(一)及び(二)の事実は知らない。

第三証拠《省略》

理由

一  本件事件発生に至るまでの経緯

1  全日本学生自治会総連合及び全国反戦青年委員会が、共同で、昭和五二年一〇月二一日午後五時ころ、日比谷公園内日比谷野外音楽堂において、「ファントム墜落弾劾、基地撤去、安保粉砕、日韓疑獄弾劾、原子力開発阻止、水本君謀殺・遺体スリカエ弾劾一〇・二一労学大統一行動」国際反戦デー集会を開催し、更に、同日午後八時ころから同九時ころまでの間、右集会参加者約六五〇名によるデモ行進を日比谷公園から常盤橋公園まで実施したこと、○○弁護士会所属の弁護士である原告が右デモ行進に同行し、解散地の常盤橋公園まで行ったことは、当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、原告は、右集会に出席して、同月二三日に開催することが予定されていた「水本君謀殺・遺体スリカエ事件」国民大集会への参加を呼びかける旨の挨拶を行い、更に、主催者の要請を受けて、右デモ行進に対する機動隊の過剰警備を監視、防止するため、デモ行進に付添ったことが認められる。

2  《証拠省略》を総合すると、次の(一)ないし(三)の事実が認められる。

(一)  前同日午後九時過ぎころ、革マル系に属する前記デモ行進の集団は、解散場所と定められた常盤橋公園に到着し、引き続き同所で約三〇分間集会を行った。この集会終了後、参加者は、デモ行進の際着用し又は使用したヘルメット、旗ざお等を資材運搬用自動車に積み込み、南側出口から右公園に沿う歩道に出るとともに、再び、この歩道上において四、五列縦隊の隊伍を組み、約六〇〇名の集団(以下「本件集団」という。)を形成して東京駅方向へ進行し始めた。

(二)  被告東京都の都警察本部である警視庁は、革マル系集団が主催する前記1の集会及びテモ行進に対し、警視庁特科車両隊長のもとに、同隊三個中隊及び第四機動隊二個中隊(第一中隊・中隊長警部岩田義三及び第四中隊・中隊長藤田博)を配備して警備に当らせることとした。特科車両隊長は、同月二〇日、配下の幹部を集め、警備対策を協議し、その結果、革マル系集団と同じく集会及びデモ行進を予定していた中核系集団及び革労協系集団と革マル系集団とが接触することを回避するため、革マル系集団は東京駅方面には行かせず、神田駅方向へ三三五五流れ解散させる方針を決めた。

(三)  前記(一)のとおり、本件集団が隊伍を組み東京駅方向へ進行し始めたため、第四機動隊第四中隊は、地点において、本件集団の進行を阻止した。このため、本件集団は、地点方向に進路を転じ、「(機動隊)帰れ」あるいは「(道を)通せ」を連呼しながら早足で同地点を左折し、地点方向に直進した。同地点をそのまま直進して左折すると東京駅に至ることになるため、本件集団を追尾していた第四機動隊第一中隊は、急きょ、全速力でこれを追いかけ、地点で本件集団の前方に回り込み、隊員約一五名が二列横隊となって歩道上に楯を構え、約三〇名が車道上に縦隊となって別紙図面(二)のとおり型の隊形を組んで本件集団の進行を阻止した(本件集団が常盤橋公園を出た後の進路が右のとおりであること及び機動隊が及びの地点で通行の規制をしたことは、当事者間に争いがない。)。

以上のとおり認められ、《証拠省略》のうち、右認定にそわない部分は採用することができず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

二  本件事件の発生

《証拠省略》を総合すると、次の1及び2の事実が認められる。

1  本件集団が前記1(三)のとおり地点において進行を阻止されたとき、原告は、右集団の先頭から五、六メートル後方にいたが、機動隊員の右阻止行動に抗議するため、本件集団の最前列に進み出た。そのころ、特科車両隊長の指揮下にある同隊副隊長警視瓜生宏(以下「瓜生」という。)は、本件集団の行動が無届デモに当ると考え、これを解散させるべく阻止線を張る機動隊の最前列に進み出た。機動隊員らが本件集団の進行を阻止した直後は、機動隊員と本件集団の先頭に位置する者らとが押し合う場面もあったが、原告及び瓜生が最前列に進み出たころには、右のような状態はおさまり、双方とも一定の間隔を保って、にらみ合っている状況にあった。この時点における原告の位置は、本件集団最前列の車道寄りにあり、前面機動隊員及び車道沿いの側面機動隊員との距離は数十センチメートルの至近であり、瓜生は、この原告とほぼ対面する形にあった。

2  前記1のとおり、瓜生と対面した原告は、瓜生に対し、何故通行を阻止するのかと抗議、詰問し、瓜生は、原告に対し、ここは通せない、どこへ進むつもりかと反問するなど押問答を繰り返えした。この時、原告は、右斜め前方から濃紺色の籠手を装着した腕がのびてくるのを認めると同時に右顔面に大きな衝撃を受けた。その直後、原告は、鼻血を出したが、鼻からの出血は、急激かつ多量であった。

以上のとおり認められ、《証拠省略》のうち、右認定に反する部分は採用することができず、他に、右認定を左右するに足りる証拠はない。

三  被告の責任

前記一及び二に認定した事実によれば、警視庁第四機動隊第一中隊所属の警察官が、その職務の執行中、原告に対し暴行を加えたものと推認することができる。

したがって、被告は、原告に対し、右警察官の暴行行為の結果生じた損害を賠償する義務を負うものというべきである。

四  損害

1  原告が警視庁所属の警察官の暴行により多量の鼻血を出したことは、前記二に認定したとおりであり、更に、《証拠省略》によれば、原告は、右の暴行により、右顔面に数日の痛みを残す傷を負ったことが認められる。

右の事実関係のもとにおいては、原告が被った肉体的、精神的苦痛は、金一〇万円をもって慰藉されるものと認めるのが相当である。

2  原告は、慰藉料のほか弁護士費用を損害として請求するが、前記二に認定した本件不法行為の態様及び本件記録上明らかな本件訴訟の経過等に鑑みると、原告の主張する弁護士費用の支出が本件不法行為と相当因果関係を有する損害に当ると認めることはできない。

五  以上によって明らかなように、原告の本訴請求は、金一〇万円とこれに対する不法行為の日である昭和五二年一〇月二一日から支払いずみまで法定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の部分は、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言及びその免脱の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川嵜義徳 裁判官 永吉盛雄 難波孝一)

<以下省略>

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